現代社会・技術の評論・雑感

現代社会・技術ついての評論と雑感

高齢者をいじめる日本社会-オレオレ詐欺に思う-

kenko856
 私は今から10年ほど前、「日本は高齢者をいじめる社会になってしまった」と思った。それは、オレオレ詐欺が多発し、日常的に報道されるようになったからだ。

 オレオレ詐欺は、電話で、高齢者に対し、息子や孫をよそおい、「オレ(息子)だけど、会社の金を使い込んでしまった。すぐ返さないとクビになる。お金を振り込んで」とか、「オレ(孫)だけど、交通事故を起こしてしまった。示談金が必要なので、至急、口座に振り込んで」などと、うそをいって現金を口座に振り込ませて、だまし取る詐欺である。
 電話やメールを使った詐欺には、オレオレ詐欺のほか、還付金詐欺、架空料金請求詐欺など多様であり、これら全体を警察では特殊詐欺とよんでいる。この小稿では、そのうち、できるだけオレオレ詐欺に限定してみていくことにする。

 オレオレ詐欺の犯罪としての特徴をみておこう。
 まず第一は、実行者が被害者と顔を合わせないことである。実行者は、電話でだまし金を要求するからである。被害者と顔を合わせないから、情といったことが起きにくく、困っている高齢者にもなさけが起きる余地が少ない。
 つぎは、実行者は高齢者をねらうことである。実行者は各種名簿を使い、(成人の)息子だ、(成人の)孫だといって話かけるのだから、相手は、当然、高齢者になる。
 また、実行者には30歳以下の若者が多いことも特徴である。

 上記に関し統計をみておこう。
 オレオレ詐欺が始まったのは1998年である。そして、2003年から急増した。統計をみると、2005年では、オレオレ詐欺の数は6854件、被害総額129 億円、1件あたり被害額は188 万円である。2022年では、6650件、被害総額158 億円、1件あたり被害額は238 万円である。オレオレ詐欺は件数も多く被害額も多大である。

 つぎは被害者の年齢や男女別構成である。
 ここでは、オレオレ詐欺以外の還付金詐欺、架空料金請求詐欺などを含めた特殊詐欺全体(9項目)の統計である。
 「被害者の多くを高齢女性が占めている現象は、(詐欺一般より)特殊詐欺でより顕著である。令和2 年(2020年)では、女性の被害者は全体の73.6 %を占める。特に、65歳以上の高齢女性が66.0 %、80歳以上の女性が36.8 %を占める。特殊詐欺の被害者の3人に2人は65歳以上の高齢女性であり、3人に1人は80歳以上の高齢女性であることになる」(吉開多一「「特殊詐欺=詐欺」ではない?」)

 30歳以下の若者にオレオレ詐欺の実行者が多いことも特徴である。
「特殊詐欺の検挙人員を見ると、若年層によって行われやすいという特徴が一層顕著である。……特殊詐欺の手口のうち……特殊詐欺4類型(オレオレ詐欺、架空料金請求詐欺、還付金詐欺、融資保証金詐欺)について見ると、令和2 年(2020年)では、30歳未満の若年者層の割合は72.1 %と高く……」(吉開「前掲文」)

 さらに、オレオレ詐欺の特徴を、より詳しくみておこう。
 オレオレ詐欺は電話による犯罪である。
 電話は便利なものである。しかし、電話によるコミニケーションには弱点もある。これに関し、私には今も忘れられない苦い経験がある。60年ほど前のあるとき、当時、大企業の係長だった私は、社内の会ったことのない他部門の課長に、仕事のことで電話で言いすぎてしまった。あとで私は「電話でなく会って話していれば、あんなことは言わなかった。もっと別な言い方をしていたと思う」と反省した。オレオレ詐欺の実行者も、高齢者と対面していれば、「この高齢者はかわいそうで金はとれない」といった気持ちが起きることもあるかと思う。

 「振り込め詐欺は欧米ではあまり聞かれない」との指摘がある。これは、文教大学の成田奈緒子教授の本(『高学歴親という病』)で、下記のように解説されている。
「ところで振り込め詐欺は欧米ではあまり聞かれない犯罪です。聞くところによると、この類の親ごころを刺激する詐欺は、日本、韓国、中国など東アジア特有の犯罪だそうです……この犯罪(振り込め詐欺)は、私は極めて日本的な親子の共依存関係が根底にあると感じます。親が子を「かわいそうだから」「心配だから」とすべて手助けしてしまう様子が透けて見えます。私たち日本人は、もしかしたら振り込め詐欺被害にあいやすい親子関係を形成しているのかも知れません」(集英社オンライン『なぜオレオレ詐欺はアジアでだけ起こるのか。騙される親子の特徴…「高学歴親という病」と経済教育の失敗』)
今回、調べだところ、電話による詐欺はアメリカでもけっこう多いようだ。しかし、「息子だよ」といった形が中心ではなかった。
 日本人のなかには過剰に子どもを心配する親が多いようだが、それを利用して金をだまし取ろうといったことが横行するのは困ったものだ。

 オレオレ詐欺の実行者に若者が多いことについては、NHKのドラマ『サギデカ』の制作統括をした須崎丘が「どうして若者が振り込め詐欺に手を染めるのかというと、苦労せずにお金を手にすることができるから……」と指摘している(西森路代『“詐欺”題材のドラマはなぜ増えている? 『サギデカ』が目指した、加害者・被害者の丁寧な心理描写』ネットから)
ネットから)。他にも、ほぼ同じ見解がみられる。

 以上で、この小稿を終わりとする。実態が多少でも分かれば対策も立てやすくなるかと思う。

(参考)
1.私のオレオレ詐欺の体験
 私(1940年代生れ)には2005年あたりからオレオレ詐欺の電話がくるようになった。もう20年ほどになる。1年に1回以上は来ているので20回以上の電話を受けている。一度だけは孫と名のったが、他は息子と名のった。それも同じ県で小、中、高、大学を卒業した息子と名のっている。しかし、私は、この息子とは年に5~6回くらい会っているためか、電話がきても、すぐ、それが息子の声かどうか判別できる。そのため、幸い、だまされることはない。最近では、息子(太郎、仮名)と名のるものに、「太郎君は何県で生まれたの」と聞くことにしている。そうすると電話してきたものは電話を切ってしまう。ある時「○○県」と答えた者がいた。私は「残念でした。違います」と答えた。私の息子は私の転勤先の県の生ま れている。

2.「大阪人はだまされにくい」
 ウィキペディアの特殊詐欺の項に次の記述がある。
「成りすまし詐欺の被害が少ない地域は大阪府で、その理由として「世話好きな性格から、困窮を装う電話にはことさら詳細な説明を求めようとする大阪人が多く、振り込め詐欺グループにとっては長電話になるうちに辻褄が合わなくなることを避けようするため」とされる」
 困った子どもに援助しようとするなら、徹底的に事情を聞けば、だまされることはない、ということのようだ。

3.オレオレ詐欺は減っているが?
 これを書いた2025年初頭では、息子などをよそおうオレオレ詐欺は急激に減っている。理由は、固定電話は留守番電話で応答する、銀行からの一度の振込額を制限するなど、対策が広範にとられたためである。そのいっぽう、警察官を名のるキャッシュカード詐欺などがふえている。電話やメールを使った詐欺の危険かへったわけではない。